ご挨拶
患者由来がんモデルは、がん研究においてその黎明期より重要なツールとして使われてきました。腫瘍細胞を身体から取り出して培養したり実験動物の体内で増やしたりすることで、我々はがんの発生や臨床的に重要な事象(転移、再発、治療抵抗性など)の分子背景を明らかにしてきました。新しい抗がん剤の開発においても、患者由来がんモデルは必須の道具として用いられてきました。近年では、ゲノム解析で同定される遺伝子の異常の生物学的・臨床的な意義を調べるために患者由来がんモデルがますます必要とされています。患者由来がんモデルはこれからもがん研究において重要な位置を占めるでしょう。
一方で、長年の課題が依然として残されていることにも我々は目を向ける必要があります。たとえば、多くの場合モデルの樹立には時間がかかり、しかも100%の成功率は望めません。また、モデルでもって治療奏効性を予測できるという仮説が昔からありますが、その仮説に対する医学的な十分なエビデンスはありません。そして、モデルが入手できないがんがたくさんあり、バイオバンクはうまく機能していません。このような課題を解決していくことで、がん研究はさらに前進していくでしょう。
本講演会では、患者由来がんモデルに関わる研究を行っておられる研究者の方々に御講演をお願いしました。また、希少がんの診療に携わる医師や患者会の方にも御講演をお願いしました。各演者の方には本分野に関係するトピックスをとりあげていただき、活発な議論が展開されることを期待しています。本講演会が患者由来がんモデルに興味のある方々の交流の場となることを願い、皆様の御参加をお待ちしています。 末筆な がら、皆様の臨床・研究・ビジネスの益々の御発展をお祈り申し上げます。
近藤格
希少がん研究分野
国立がん研究センター研究所